・NTRれたいベリアルの話。
・モブサン匂わせ。
・セフレ匂わせ。
・サンダルフォンの保護者はルシフェル。


剥離

不快な音で目が覚めた。
眉を寄せながらサンダルフォンは薄暗い中で視線を動かす。
枕元のスマートフォンは充電中で微動だにしていない。
ならば、原因は。
体にかかる重みに更に苛立ちながら腕を動かす。
肘をぐっと背後へ突き出した。
「ぐぅ、ぃって……」
腹に当たればいいと考えていたが上手く鳩尾に入ったらしい。
ごそごそと動いてようやく体が軽くなった。
「どうしたのサンディ、物足りなかった?」
笑いながら再び身を寄せるのを肘で威嚇する。
「うるさいから早く止めろ」
「え?あーハイハイ」
ギシリとベッドが音を立てる。
離れた気配にほっと息を吐き出して、ブランケットを体に巻き付けた。
眠りを邪魔されないように。
けれど、脱ぎ捨てた服からスマートフォンを取り出し再びベッドへと戻ってくる。
そのまま服を着て帰ればいい、そんな願いは叶わなかった。
「見てみろよ」
言いながら、背中から抱き込まれる。
目の前に画面を固定され、眩しさに眉を寄せた。
「笑えるだろ」
男がスクロールしていくと、死ねや殺すといった物騒な言葉が並んでいた。
短絡的だが相手の怒りは伝わってくる。
全く笑えない。
「また、既婚者にでも手を出したのか」
「いや?知らなかったんだよ。寝たのも……二回?くらいだし」
誠実さに欠ける言葉を吐きながらとぼける。
その間にも新しいメッセージを受信していた。
違う相手からの会いたいという誘いも混じっている。
それにもう切れてるしね、と言ってスマートフォンの電源を落とす。
辺りが再び暗くなった。
「最近さぁ、つまんないんだよねぇ」
「楽しそうに遊び歩いてるだろう」
「あれ?サンディ嫉妬?嬉しいな」
「シネ」
さっさと寝ろと突き放したいが、抱き込む腕の強さと続く言葉にため息を吐く。
ある程度付き合わないと終わらないのだろうと。
「奪うのなんて簡単すぎるだろ?」
「やっぱりわかっててやったんだろう」
「さぁ?どうかな?」
フフフ、と笑う声が耳に響く。
「オレもたまには奪われてみたい。大事な物を盗られるってどんな気分なのか、相手を殺したいほど憎むのか」
するりと首に指が掛かる。
爪の先が肌を撫でていった。
「だからさ、ちょっとルシフェルと寝ておいでよ」
突然出てきた養い親の名前にうんざりする。
これまでに幾度も繰り返したやりとりだ。
「は?俺とルシフェルはそんな関係じゃないと何回言ったらわかるんだ」
「いやいや、もう子供じゃないんだとか言って誘ってみなって、できるだろ?」
「そんなこと、あり得ない」
「それはキミの意見だろう、相手がどう思っているかなんてわからない」
首の後ろに唇が触れる。
口付けて、軽く歯を立てられた。
ひくりと体が震える。
「今日は終わりだ」
「ん?想像で興奮してきたからもう一回」
「その女のところにでも行け」
「キミが一番だよ」
ブランケットの上からするすると腰を撫でていく。
「こんなに相性がいいんだから」
背中に押しつけられた昂りに反応してしまう。
いつだって、体は簡単に絡め捕られる。
「ほら、キミだってもうその気だ」
大事な相手はちゃんといる癖に、と。
まるで詰るような言葉が一瞬浮かんだ。
そんなことを言うような関係ではない。
気づかぬふりをしながら、ベリアルの手を受け入れた。


サンダルフォンは両親の顔を知らない。
幼い頃の記憶も曖昧で、気が付けば一人だった。
施設や里子に出された気もするがそれもはっきりとはしない。
十歳の頃にルシフェルに引き取られた。
それからのことは割と覚えている。
記憶が曖昧だと話すと、辛いなら思い出すことはない、とルシフェルは穏やかに告げた。
多忙なルシフェルと過ごす時間は短かったが、大切にされているとはわかった。
サンダルフォンが成人しても多少過保護の気がある。
自立したい気持ちと反発し、家を出る時は少し揉めた。
就職するまでは共に暮らす、となったのだが。
ルシフェルが仕事の関係で引っ越すことになり、一人暮らしを始めた。
離れて暮らすようになり、様々なことを考えた。
幼い頃の影響か、サンダルフォンは愛情に対して希薄だった。
ルシフェルは尊敬しているし、大切にされていた。
若くして子供を引き取ったのだからそれを、無償の愛と世間では呼ぶのかもしれない。
しかし自分に結びつけることができなかった。
愛されている、とは考えたこともなかった。
周囲と同じように恋愛や性に興味が持てない。
誰かと家庭を築くことができれば、ルシフェルを安心させられるのではないか、と。
それが一般的であり、そうあることを望んでいる、と思っていたのに。
誰にも惹かれない。
異常なのか、何かがおかしいのか。
悩んでいた頃に出会ったのがベリアルだった。
実際には再会だったのだが、それはかなり時間が経ってから聞かされた。
ルシフェルの兄、ルシファーと一緒に会ったことがあるよ、と。
その時点でベリアルのことは欠片も信用していなかったのだが関係がずるずると続いている。
素性もよくは知らない。
ベリアルは薄っぺらい愛を囁く。
誰にでも簡単に。
信じはしない、それでも。
人肌の心地よさを知ってしまった。
無いと思っていた肉欲は、抱かれる快楽を教えられた。
歪になった心は愛を知らないままに。


ベリアルがサンダルフォンに会ったのは、ルシフェルに引き取られてすぐのことだった。
感情が欠片も動かないような男が子供を引き取った。
最初は冗談かと思ったほどだ。
仕事もあるのに育てられるのか、と弟の暴挙にルシファーは呆れていた。
それを、からかいがてら見に行こうと提案した。
物好きだと思いながら。
そして出会った子供は、感情が抜け落ちていた。
反応も乏しく、当時ベリアルに会ったことを覚えていなくても無理もない。
不幸な生い立ち、という言葉が浮かぶ。

同情か。
随分お優しいことで。

それでも、子供にはルシフェルしかいないようだった。
ルシフェルも子供には感情を傾けていた。
ほんの短い時間しか見ていない。
まるで何かを埋め合うような光景は、見ていて吐き気がするほどだった。
世界は優しくないし、簡単に奪われてしまうのだから。
そこで二人への興味は無くなった。
ベリアルにとって世界の中心はルシファーで、その弟のルシフェルは反りが合わない。
ルシフェルもベリアルに好感は持っていないだろう。
子供の存在などすぐに忘れてしまった。
十年ぶりに見かけて、すぐにはわからなかった。
ルシフェルに育てられたのに、随分と気性が荒いな、というのが感想だった。
案外自分好みなことに気付く。
思い悩む若者を手中に落とすのは簡単だった。
理解ある大人のフリをして、甘やかな言葉を囁く。
ルシフェルに愛されているのに、気付いていないなんて。
気づかぬ間に奪われたと知ったら、どうなるだろう。
無垢な体に快楽を仕込んで、人肌を恋しくさせる。
薄っぺらな愛を囁きながら。
少しずつ披露するベリアルの嘘に、サンダルフォンは感情を露わに反応した。
早く逃げればいいのに正面から向き合ってくる。
それが楽しくて余計につついてからかいたくなる。
楽しかった。
いつの日か、すべて壊してやろうと考えながら。


部屋の明かりはついていなかった。
午後十時、若者なら遊んでいてもおかしくない時間だが、真面目なサンダルフォンは帰宅していることが多い。
少し疑問に思いながらも合い鍵を使って部屋に入る。
廊下のセンサーライトがついた。
靴を脱ごうとして、見慣れぬスニーカーに気付く。
「……へぇ?」
友人を招いたことはないと言っていた。
サンダルフォンは自分のテリトリーを侵されることを嫌っている。
そこに無遠慮に入り込んでかき乱すのがベリアルは楽しかった。
それなのに、自分以外の誰かがやってきている。
背筋が震えた。
興奮に近い感覚に、は、と息を吐き出す。
こういう勘は当たるものだ。
電気がついていないのは外から確認済み。
では、なにをしているのか。
リビングのドアを開けると、今度は見知らぬリュックがソファの上に乗っていた。
誰もいない、けれど。
いつもと空気が違う。
ゆっくりとリビングを進み、寝室のドアに手をかける。
金属音が妙に大きく聞こえた。
「……っ!」
肌がざわつき、血が沸騰する。
久々の高揚感に叫び出しそうだった。
あの、サンダルフォンが。
出会った頃は性に無自覚で、興味もないと取り澄ましていたのに。
今、ベリアルの目の前で知らぬ男とベッドに入っている。
さすがに最中ではなかったけれど。
どれくらい早く来ていたら遭遇できただろう。
想像だけで勃起してしまいそうになる。
数日前にベリアルに抱かれたベッドで、違う男に抱かれて。
今すぐにでもブランケットを剥いでしまいたい。

殺したいほど憎い?
まさか。
どうやって抱かれたのか、男の前で説明させながら犯したいくらいだ。

そっと、指の背で頬を撫でる。
ほんの少し、眉を寄せて。
「ん……ベリアル」
認識していたのか、それとも無意識なのか。
声は少し掠れている。
「おはようサンディ、お楽しみだったみたいだな?」
すぐにでも暴きたいを感情を押さえつけ、問いかける。
ふ、と口角が緩く上がった。
ブランケットの隙間から手が延びる。
ゆっくりと頬を撫でていった。
「どうだ、興奮するか?」
妖艶な顔を見せる。
それは、ベリアルしか知らない。

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