18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います。


欲望スパイラル

握った剣を振り下ろし、伝わる手応えにほっと息を吐き出す。
魔物討伐の依頼はそう難しい内容ではなかった。
少人数で森へと入り、最後の一体をグランが倒した。
これで終わり、と緊張感が少し緩む。
振り返って合図をしようとすれば。
「グラン!」
声は思ったよりも近くから響き、焦りが含まれるようだった。
それに気が付く前に、どん、と体に衝撃が走る。
受け身をとって視線を向ければ、先ほどまでグランが立っていた場所にサンダルフォンがいた。
魔物の吐き出した体液で濡れた状態で。
「サンダルフォンさんっ!」
悲鳴のような、ルリアの声が響く。
近寄ろうとするのを、サンダルフォンが手で制した。
「汚れるから来るな」
淡々と言いながら、魔物から剣を引き抜く。
汚れを落とすように一振りして、グランへと差し出した。
「ごめん、僕が」
「俺が勝手にしただけだ」
汚れた体を眺めて、様子を見ていたルリアたちに視線を向ける。
「水の音が聞こえるから、そこで汚れを落としていく。君たちは先に戻っていてくれ」
言って、答えも聞かずに歩き出した。
背中はすぐに木々で見えなくなってしまう。
「グラン……」
困ったような、不安そうな。
ルリアの声にグランが苦笑する。
問題の魔物も退治したし、何かあってもサンダルフォンなら大丈夫だろう。
それでも。
「心配だから僕も行ってくるね。みんなは戻ってていいから」
大丈夫だよ、と安心させるように微笑んだ。
カタリナがルリアの肩に触れ促すのを確認してから、サンダルフォンの後を追う。
少し進むと、グランの耳にも水音が聞こえてきた。
おかしな様子はなかったので、それほど心配はしていない。
けれど、何かあってからでは遅いのだ、と思いながら川辺へとたどり着いた。
「サンダルフォン」
装備を外し、川に手を浸す姿があった。
気配に気付いていたのか、不機嫌そうな表情をしている。
「戻れと言っただろう」
「うん、でも心配だから。大丈夫?」
傍に寄れば、濡れた髪を煩わしそうにかきあげた。
ほんの少し、思案するように瞳を逸らす。
「サンダルフォン?やっぱりどこか」
「大丈夫じゃなければ君は何をしてくれる?」
「えっ?」
グランの手を掴む指は、水に触れていたのに妙に熱い。
引き寄せられ、触れた唇も、その吐息も。
「体の熱が鎮まらない」
「さっきの、魔物のせい?」
「だろうな。毒だと判断していないのか、回復しない」
手首や腕の内側も撫でられる。
その触れ方は情欲を滲ませていた。
「一人でどうするつもりだったの?」
「適当に時間を潰すつもりだったが、君が来た」
グラン、と。
呼ぶ声が響く。
よく見れば、不機嫌な表情も普段とは少し違う。
触れた箇所から熱が移るように。
心臓がどくりと音を立てる。
「いいよ」
ぐ、とサンダルフォンの手を引いた。


体内を、収まることのない熱が回る。
せめて木で隠れるところにしよう、と言われ移動した。
太い木の幹に手を付いて、グランはサンダルフォンに背を向けている。
これまで欲求らしい物を自覚したことはほとんどなかった。
ずっと、望んでいたのは役割だけだったのに。
いつの間にか強欲になってしまったと、グランに触れながら自嘲する。
白昼から外で下半身を露出するのはかなりの羞恥があるのだろう。
真っ赤になった耳にそっと唇を寄せた。
「柔らかくなってきた」
「っ、言わなくていいよ!」
傷薬として持ち歩いていた軟膏を纏った指が、グランの中を出入りする。
腰を押しつければ、息を飲む気配がした。
「グラン」
「いい、よ、もう」
言いながら、視線だけを向ける。
辛いのだろうとサンダルフォンを気遣いながら。
いつだって、彼は赦してしまう。
それにどれだけサンダルフォンが救われているか、グラン自身は気付いていない。
「すまない」
言いながら、指で広げた箇所に高ぶった自身を押しつける。
己よりも小柄な体を一息に貫いた。
「っ、ひ、あぁっ」
背中に覆い被さりながら抜き差しを繰り返す。
「ぁ、待って、やぁっ」
苦しげな声がかわいそうだと思うのに、体の制御ができない。
「グラン」
「ふぁ、っあ」
腰を掴んでいた手を前へと移動させ、グランの性器に触れる。
先走りを絡め取って扱けば、きゅうっと中が締まった。
「イキそうか?」
「ん、ぁ」
うなじに噛みつき、彼が生きる証を感じる。
汗の味と、血の脈動を。
このまま抱き潰して己の物にしてしまいたい衝動は、これまでも抱いていた本心か、それとも。
一時の幻覚か。
「グランッ」
木の幹に体を押しつけ、最奥を抉ればグランは悲鳴のような声を上げた。
掌に白濁が零れ、搾り取るように蠢く内壁に促されてサンダルフォンも欲望を吐き出す。
「は、ぁ……」
余韻で体が揺れる。
一度達したら収まるかと思ったが、くすぶるような熱が残っていた。
「サンダルフォン……」
「ん?」
この事実をどう伝えるべきか、悩む間に。
「やっぱり、顔が見えないと嫌だ」
弱々しい声音と共に、ほんの少し振り返る。
瞳にはうっすら涙が滲んでいた。
情欲が混じるのは気のせいではないだろう。
グランの体を支えながら自身を引き抜くが、力が入らないのか地面へとへたりこむ。
「この前、ベッドじゃないから背中が痛いと文句を言った癖に」
「それは……」
ガサッと葉の擦れる音がした。
風とは違うそれに、互いの体が強ばる。
「野外プレイがお好きとは天司長様も随分イイご趣味じゃないか」
声に顔を上げれば、にやつく男がすぐ傍にいた。
チッ、と舌打ちが漏れる。
「うるさい、貴様の相手をしている暇はない」
「心配で来てやったのに随分な物言いだね?オレ以外の奴だったらどうするつもりだったのかな?」
その言葉がどこまでが真実かもわからない。
他の誰か、ならばわざわざ気配を消して近付いてこないだろう。
「問題はないから帰れ」
サンダルフォンは答えるが、グランはまだ戸惑うようだった。
震えているのに気づき、ベリアルの視界から遮るため羽を広げる。
「愛しの特異点はオレに見せたくないって?健気だねぇ」
言いながら足音が近付いた。
「でも後ろががら空きだぜ、サンディ?」
そろり、と。
翼の付け根に触れた。
似合わぬ優しげな手つきは、官能を刺激するように柔い羽を擽る。
「安心しろよ、オレは約束は守る男なんだ」
「貴様に信用なんてない」
「へぇ?信じてない相手と約束するのかい、天司長様は」
無防備な背中を晒していることにぐっと唇を噛んだ。
「キミがおとなしくしていれば特異点には触れない」
約束だからな、と狡知が笑う。
「どんな風に抱いているのか、オレによく見せてくれればいい」
「なぜそんなっ……」
言い返そうとすれば、背中に爪が食い込んだ。
いつでも引き裂けるのだと示すように深く。
「あぁ、なんだ萎えたのか。ならオレが勃たせてやろう」
「待て、やめろっ」
先ほどグランにしたように、指がサンダルフォンの体を開く。
「体は素直で可愛いなサンディ」
乾いた箇所は痛みを伴いながら指を呑み込んだ。
この行為が初めてではないことを示すように、きゅうと絡みついて。
「ほら早く突っ込んでやらないと、間違えてオレがぶち込むけどいいのかい?」
いつも、逃げ道を断ってからやってくる。


滅多に見せてくれない羽に包まれた。
安堵したのは一瞬で。
何が起こっているのか、見えないが二人の会話で理解してしまう。
「ほら、いつもどうやって抱いてるんだ?」
楽しげに笑う声が聞こえる。
「お上品ぶっててもヤることは変わらないんだ、オレが教えたようにぐちゃぐちゃにしてやればいい」
「ふざけるな」
「本能に従えばいい、簡単なことだろう?」
「サンダルフォン」
名を呼べば、はっとしたようにグランに視線を落とす。
「僕は大丈夫だよ。それに、まだ辛いでしょ?」
魔物の効果は消えていないはずだと。
下半身が触れているので熱が伝わってくる。
「グラン」
「ね、もう一回しよう?」
「はは、特異点の方が優秀じゃないか」
ぎゅ、と一度目を閉じた。
再び見えた赤い瞳は辛そうで。
「すまない、グラン」
二度目の謝罪だな、と思いながら再び挿入される。
先ほどよりもゆっくりと、抵抗無く体内に収まった。
「んん……」
腰が動き、中に出された物がぐちゅぐちゅと音を立てる。
「グラン」
息が触れるほど近付く。
緩やかな律動はじわじわと快感を高めていった。
「そんな温いやり方じゃオーガズムにはほど遠いだろ」
「やめろ……!」
ぐん、とサンダルフォンの体が揺れた。
叫び声を耐えたのか、唇が切れ血が滲んでいる。
「しっかり覚えろよサンディ」
「あぁっ」
抜けていったと思ったら一気に突き入れられた。
肌がぶつかる音はどこから聞こえているのか。
角度を変え中を穿ちながら、激しく体が揺さぶられる。
息が上がり、痛みか快楽かもわからなくなる。
けれど、それ以上に。
サンダルフォンの表情に魅入っていた。
「見るな、グラン」
快楽を耐えるように、眉間に皺を寄せて。
瞳はとろりと濡れている。
それ、が。
屈辱なのか羞恥なのかわからないけれど。
グランが今まで見たことのない表情だった。
「見ないでくれ」
視線から逃れるようにサンダルフォンが横を向けば、背後から伸びた手が顎を掴む。
「見てもらえよ、キミの全てを」
「ん、ふっ……」
唇を撫でた指先が口内に潜り込む。
ちらりと赤い舌が覗いた。
そっと頬に触れる。
「サンダルフォン……かわいい」
傷ついた表情をして、泣きそうに瞳が揺れた。
愛しくてたまらない気持ちがわいてくる。
気高く美しい天司が、快楽に堕ちまいともがく。
「気に入ってくれたならオレも嬉しいよ」
サンダルフォンの体が押しつけられ、最奥を捏ねるように腰が動く。
熱を帯び、体が震える。
感じる快楽はきっと、同じ物だろう。
「っ、ぁ……」
瞬いて、滴が落ちる。
「サンダルフォン……」
寄せた唇は、血の味がした。


すぅっと羽が消えた。
意識が飛んだのかサンダルフォンの体から力が抜ける。
グランが受け止め視線を上げると、楽しげに笑う男がそこにいて。
「オイオイ、これで終わりだなんて軟弱すぎないか?」
サンダルフォンの背に触れようとした手を払う。
うっすらと、爪の跡が残っていた。
「ダメだよベリアル、サンダルフォンは僕のなんだから」
「男前だな特異点、惚れそうだ」
その言葉は無視し、背中をそっと撫でる。
目覚める気配はない。

可愛い可愛い天司を抱きしめた。

text