ベリフェル(未満)が現れてブチ切れる団長(→サン)


自覚症状

「というわけでベリアルの監視はルシフェルにお願いしたいんだけど、任せてもいいかな?」
手の空いた団員を集めた、騎空艇内の食堂。
一番後ろの席に座っているのは、羽をしまえないのかしまうつもりがないのかわからないルシフェルだった。
「了解した、期待に添えるよう尽力しよう」
淡々と答えるルシフェルの横で、ベリアルはどこかつまらなそうな表情をしている。
ぺらぺらといらぬ話で邪魔をしてきそうなものだが、奇妙なほど静かだった。
数時間前、姿を消したはずの元天司長と堕天司が現れた。
それぞれ思い当たる原因はないらしい。
ルシフェルはともかく、ベリアルを放ってはおけない。
団員に事情を説明し、今後の予定を決めた。
もめるかと思っていたが簡単に話がまとまりほっとする。
皆に戻って良いと告げようとしたとき。
「いや、ルシフェル様が付くぐらいなら俺が」
異を唱えたのはサンダルフォンだった。
あぁやっぱりと思う。
敬愛する相手をベリアルと二人きりにさせるなど許せないのだろう。
言いたいことはよくわかる。
しかし、それがいけなかった。
「へぇ、サンディ自らオレの相手をしてくれるって?情熱的だな。じゃあベッドに行こうか、キミの部屋で構わないよ」
ベリアルの標的がサンダルフォンに定まってしまう。
「ふざけるな今ここで息の根を止めてやる」
「サンダルフォン」
声をかけ、にっこりと笑ってみせる。
「俺が、何だって?」
「だから、監視なら俺が」
「ダメに決まってるでしょ、サンダルフォンはベリアルにセクハラされたらすぐ喧嘩になっちゃうんだから」
今もまさにつかみかかろうとしていた。
せっかく間にルシフェルを挟んでいるのに。
「毎日ベリアルと過ごすの耐えられる?艇壊したりしない?」
重ねて問えば、ぐ、と言葉に詰まる。
あわよくば排除しようと考えていたのだろう。
「さっきからルシフェルには何も言わないでしょ?任せるのが一番いいんだよ。わかった?」
「……わかった」
憮然と頷くサンダルフォンと、感情の読めないルシフェルと、やはりつまらなそうなベリアルがいた。


基本的には騎空艇から降りないように、と決まり話は終わった。
それも今後の態度次第ではあるだろう。
では部屋に案内を、となったところで。
「人手が足りないみたいだからローアインの手伝いお願いできるかな」
そうサンダルフォンに告げれば、食堂の一角を借りている自覚があるのだろう、納得していないようだがわかったと頷いた。
突き刺さる視線を感じつつも、こっちだよと廊下を示す。
辺りから人気が減ると。
「サンディに聞かせられない話でもあるのかな?特異点」
楽しげな問いが背後からかけられた。
振り返れば、にやにや笑うベリアルと、何もわかっていないルシフェルがその後ろに立っている。
戸惑いはサンダルフォンが一番大きかっただろう。
当の二人は、何か顕現しちゃった、というレベルだ。
「サンダルフォンがやっと落ち着いてきた頃に現れるとかもうちょっと空気読んでくれる?僕には数十年しかないんだから邪魔しないでよね」
苛立ち紛れの八つ当たりのようなことを言っていた。
顎を撫でてニヤリと笑うベリアルに、更に言葉を投げようとしたら。
「では私は艇を降りた方がいいだろうか」
至極まじめな問いかけに、一瞬時が止まった。
何を言っているんだ。
「そんなことしたらサンダルフォンが悲しむでしょ」
「そうだろうか」
「そうなんだよ!!」
「しかし、私はサンダルフォンの心を乱すのは本意ではない」
表情は変わらない。
「やはりもう会わない方がよかったのだろうか」
ルシフェルのことは夢で数回見た程度だ。
あとはサンダルフォンから聞いたくらいで。
空のためだけに生きたその人が、その声に憂いを滲ませる。
八つ当たりの狭量さに少しばかり心臓が痛くなった。
こんな悲しそうにされるのは予想外だ。
「さっきの食堂でサンダルフォンが喫茶室開いてるからさ、明日顔出してあげて」
そして辿り着いた部屋を示す。


「ごめんね今部屋足りなくてさ、二人部屋でよろしく!」
基本他人の意見を聞き尊重する特異点であるが、このときばかりは強引で。
やることが残っているからと、言い返す間もなく廊下を戻っていった。
騎空艇の中では団長である彼の意見が絶対なので、文句も意味をなさないだろうが。
二人が放り込まれたのは、簡易ベッドが二つだけの部屋。
向かい合ってベッドに腰掛ければ、膝が触れるほどだ。
休息は必要ないのだからここにいなくても構わないのだけれど。
監視という名目を互いに付けられているのだ、用もなくうろつくのはよくないのだろう。
守る気も特にないけれど。
ルシフェルは実行するだろうから、後を付いてこられると面倒だなと思う程度だ。
はぁ、とため息をこぼしてベッドに転がる。
「皮肉なもんだな」
「何のことだろうか」
独り言のような言葉に、ルシフェルが律儀に問う。
さすがに狭い室内では羽を消し、ベッドに腰掛けて。
「キミに居場所を悟られないように過ごしてきたのに、今から同じ部屋だなんて笑えるじゃないか」
「笑えるだろうか」
どこかぼんやりとした表情をしている。
感情が動いたところなど見たことがない。
サンダルフォンが反乱に関わったと知ったときですら。
「……やはり私はもうサンダルフォンに関わらない方がいいのだろうか」
「悩み相談は管轄外だ」
あの嬉しそうな表情を見てそんな思考になる辺り何も変わっていない。
特異点の言葉なんてただの嫉妬だろう。
そりゃそうだ、思い出にしか存在しない相手が目の前に現れたらどうしたって心はぐらつく。
そうさせないほど自分に引き留める自信がないのならば。
「君もそうだ、私よりもサンダルフォンと共にいる方が楽しいだろうか」
「どこを見てそんな言葉が出てくるのか解説して欲しいところだね」
「楽しそうに笑っているだろう」
からかったときの反応が良いだけだ。
あれで天司長が務まるのか疑問ではあるが。
「私の前ではそんな表情を見たことがない」
今はサンダルフォンの話ではなかったのか。
自分へ向いた矛先に眉が寄る。
「ハハ、何それ嫉妬?」
「そうかもしれない」
訳の分からない肯定に、笑い声など出なかった。


食堂の一角に設けられた喫茶スペース。
覗き込んで人が少ないなと思ったが、きらきらと輝きを纏う後ろ姿に、あぁと納得した。
カウンターの中に立つサンダルフォンと、その前に座るルシフェル。
そして少し離れた位置で頬杖をついているベリアル。
簡単には近付けない。
「珈琲煎れてもらえないの?」
「イヤ、別に?」
長い脚を組む横に座れば、ちらりと視線を向けられた。
「ちゃんと付き合っててえらいよね」
「オレが?」
「正直言うとすぐふらっといなくなっちゃうと思ってた」
「まぁキミたちに付き合うのも退屈しないかと思ってね」
それがどこまで真意かはわからないが、ルシフェルがいるなら大丈夫だろう。
「邪魔しなくていいのかい?」
「そんなことしないよ」
口元に微笑みが浮かぶ。
小馬鹿にするでもなく、見たことのない表情だ。
「絵図がいいよね」
「わかる」
「わかるんだ」
「ルシフェルにデレてる顔は歪ませたくなるよな」
よほどおかしな顔になったのか、にやにやと笑う。
そんな、聞かれてはまずいやり取りをしていると。
「団長、君は珈琲でいいか」
先ほどの笑みはどこへ行ったのか。
見下ろすのは憮然とした表情で。
「狡知の話に耳を貸さなくていいからな」
「酷いじゃないかサンディ、オレはまだ何もしてないぜ?」
「貴様と関わるとろくなことがない」
そしてまたカウンターに戻っていった。
「あれ、もしかしてルシフェルよりオレを警戒してる?フフ、光栄じゃないか特異点」
憧れを隠しもしないルシフェルよりも。
サンダルフォンの表情を崩すベリアルが憎い。
言い当てられて眉が寄る。
どう誤魔化すべきか悩みつつ顔を上げると、ルシフェルと目が合う。
珍しいなと思った、その直後。
「サンダルフォン」
「何ですかルシフェル様」
「特異点が君に懸想しているようだから応えてあげてはどうだろうか」
「……は?」
すごい表情でサンダルフォンがこちらを見た。
いや、本当に空気読んで。

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