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彼が、美しく微笑むのを知っている。
向ける相手はもう、いないけれど。

下剋上セオリー

コンコン、と控えめなノックの音が響く。
どうぞと声をかければ扉が開いた。
鎧のない軽装で、サンダルフォンが顔を見せる。
手には珈琲の入ったカップが二つ。
「時間は大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
そう答え、グランは手にしていた本を閉じた。
差し出されたカップを、ありがとうと受け取る。
サンダルフォンも横の椅子へと座った。
交わす言葉は他愛のない物だ。
少し前ならくだらないと切り捨てられたかもしれない。
低い声の相づちが耳に心地良い。
一緒に旅をしよう。
そう告げた時はまだ、グランの中で感情に名は付いていなかった。
これまでの経験から誘ったようなものでもある。
放っておけない、と言うのかもしれない。
それに皮肉っぽくサンダルフォンは笑った。
反対意見もあったが押し切り、実際に戦力になっている。
すぐに関係が良好になったかというとそうでもない。
危機感が足りない警戒心を持て、他は何だったか。
君はマゾヒストなのか、だとか。
覚えていないがもっとある。
お人好しだとは散々言われてきたが、サンダルフォンの言葉は辛辣だった。
それが、こんな関係になるとは。
頬に触れ、首筋まで撫でられる。
明らかな意図を持った手つきに耳まで熱くなった。
視線を向けるが触れてきたサンダルフォンは涼しげな表情を崩さない。
「どうするグラン?」
珈琲はもう空だ。
首を振って逃げれば、額に口づけられおやすみと言われるのだろう。
まるで主導権を渡すようだがそうではない。
恥ずかしさに悩みながら、そっと手を重ねた。
最初はいつだっただろう。
二人きりになって盛大に溜息を吐かれた。
「俺に隙を見せていいのか?」
「だってもう何もしないでしょ?」
同じ目的を持って騎空艇に乗ったのだから。
嫌味でも悪意でも無くそう言った。
それなのに。
眉間にくっきりと皺を寄せた不機嫌そうな表情。
軽い舌打ちが聞こえ、とんっ、と肩を押されて気づけばベッドにうつ伏せていた。
右手を背中へと捻られ、腰に重みがかかる。
「これでも何もないと言えるのか?」
体重をかけて押さえ込まれ、もがいても抜け出せない。
自由だった左手を彷徨わせるが武器になりそうな物はなかった。
そしてその手首も軽々と掴まれる。
「ほら、大声で助けを呼ばないとどうなるかわからないぞ」
脅しと言うには迫力がなかった。
危機感の足りないグランに躾をするようなものだったのだろう。
容易に動きを封じられるのだ、と。
首を捻って振り返る。
降参だと示すつもりだったのだが。
ベッドの上、のしかかられた体勢は年頃のグランには刺激的だった。
相手が皮肉な天司だとしても。
むしろその、綺麗な顔立ちに見下ろされてゾクゾクした。
「おい、特異点」
一気に赤くなった頬に、不審そうに声がかかる。
手の力が緩んだが抜け出そうとはしなかった。
「……何だ、その気にでもなったのか」
ぐり、と腰を押しつけられて。
瞳の鋭さに全てを奪われる。
与えられる快楽に、若い体は簡単に溺れた。


「考え事とは余裕だな」
「ぁっ」
きゅっと胸の突起を刺激され声が漏れる。
君のことを考えていた、とはさすがに言えない。
衣服は簡単に脱がされ、無防備な裸体を晒す。
少し温度の低い掌が肌を撫でる感触に腰が震える。
時折、傷跡を見つけては唇が触れた。
「俺にされるのでは物足りないか?」
「そんなわけないっ……!」
触れられれば落ち着かず、体は反応を示す。
相手にももちろん伝わっていて。
ニヤリと笑いながら、下腹部へと手が滑る。
「敏感だな」
するりと性器に指が絡む。
数度上下に擦られれば完全に勃起した。
「明日は平気なのか?」
「っぁ、大丈夫」
答えれば、サンダルフォンがサイドテーブルの引き出しから容器を取り出した。
「グラン」
体勢を変えられ、うつ伏せて枕に抱きつく。
膝を立て、腰を突き出す格好に羞恥で頬が熱くなる。
幾度繰り返しても慣れない。
容器から掬い取ったクリームが狭間に塗りつけられる。
馴染ませるように指が動いた。
「力を抜いて」
背中に体が密着したと思えば、耳元で囁かれた。
熱くなった耳に唇が触れ、ぺろりと舐める。
「ぁ、やだ……」
「嫌なのか?」
うなじや首筋にも口づけが落ちる。
「好きだろう?中まで可愛がってやる」
大事にされている、と思う。
言葉とは裏腹にその手つきはとても優しい。
「んんっ」
ゆっくりと指が侵入する。
異物感はあるが抵抗はない。
クリームをまとった指はスムーズに出入りを繰り返す。
慣れた頃に指が増え、後孔を押し広げる。
「ぁ、サンダルフォン……」
腹側のしこりを柔く押さえ込まれ、きゅうっと指を締め付ける。
反対の手は胸や腹をするすると撫でていった。
「ゃ、それっ」
「ん?」
とぼけたような声を出し、押さえ込む力が強くなる。
綺麗な指に暴かれていると思えば、頭が沸騰した。
ぐちぐちと音を立て、前も一緒に扱かれれば理性は一気に飛んでいく。
「ぁ、あぁぁっ」
どろりと吐き出した欲望はサンダルフォンの手に受け止められた。
「は、ぁ……は……」
中から指が抜ける感触に身震いする。
膝の力が抜けベッドに倒れ込む。
きゅうっと物足りなさそうにひくつくのを自覚した。
それなのに。
「疲れているならもう寝るか?」
平素と変わらぬ淡々とした声がかけられた。
呼吸を整えながらそちらを睨む。
「サンダルフォンも、一緒に気持ちよくなって」
精一杯、誘うように手を伸ばす。
膝も少し立てて。
「そうだな」
ふっと笑う表情が艶やかでドキッとする。
控えめに開いた膝をぐっと広げられた。
散々見られていてもいざとなると恥ずかしい。
「一緒に気持ちよくなろうか、グラン」
体が密着して重みがかかる。
押し当てられた高ぶりにほっとした。
情事の最中でも余裕があって、グランに触れているときは性欲など感じさせないことが多い。
そんな相手が、己を抱いていることに。
「ぁ、あぁぁ……」
体を拓かれる感覚に息を吐いた。
自身を貫くそれがサンダルフォンの欲望だと思えば愛しくなる。
この行為に快楽を得ているのだと思えた。
「グラン」
名を呼ばれただけで体が震える。
伸ばした腕を背中に回して抱きついた。
互いを隔てる布の感触がもどかしい。
けれどそんなことを告げる余裕もない。
ぐうっと奥まで挿入され呼吸を忘れる。
「グラン」
宥めるように頬や腕を撫で、名を呼びながら口づけが落ちる。
幾度も繰り返し、呼吸が落ち着いてくると腰の動きが速まった。
ぐちゅぐちゅと溶けたクリームが音を立てる。
「ふ、ぁっ、んぁっっ」
抜けていったと思うと、弱い場所を狙って穿たれた。
ぎゅ、と強く背中にしがみつく。
「グラン、イキそうか?」
涙が滲む視界に、赤い瞳が映る。
そこにある感情は、何だろうか。
覗き込んでもわからなかった。
「ん、サンダルフォンッ」
最奥を捏ねるように刺激され、体がこわばる。
性器に指がかかり、二度目の射精を促された。
「っ、あぁぁっ」
絶頂へと追い立てられ、中に納めたサンダルフォンを締め付ける。
「ッ、グラン……」
ほんの少し焦ったような声音の後、ずるりと抜けていく感触に、切なさがこみ上げた。
まるで一人、取り残されるように。
「は、ぁ……」
グランの腹の上で、互いの白が混じり合う。
息を詰めた表情を伺い、目を閉じた。


快楽を与えられるまま翻弄されるのはグランの方だ。
気遣われているのもわかる。
けれどサンダルフォンがどうしたいのかがわからない。
グランがしたくない、と言えば今日だってそこで終わったのだろう。
できるなら、同じように返したいと考えてしまう。
「僕だって、君を抱きたい」
ぽろりとこぼれ落ちた言葉に、驚いた顔をする。
事後の余韻も何もない、タオルで後始末をしながら。
「君にもそんな欲があったのか」
「そりゃ、あるよ」
好きだから。
それは言葉にはならなかった。
「君が俺の身長を越したら考えてあげよう。それまでは俺に可愛がられていればいい」
そう言って抱きしめられる。
何気ない言葉に心臓が抉られる気がした。
サンダルフォンは不変だ。
天司、星晶獣であるから。
二千年の時を過ごしてきた。
対するグランは、空の民であり、比べればわずかな時間しか生きていない。
そして、これからも。
共に過ごす時間は、サンダルフォンにとっては些細な物でしかないのだろう。
考えるとやるせなくなる。
どれほど想っても願っても、きっと届かない。
グランは成長し、変化して。
そしていつの日か、サンダルフォンを置いていく。
どん、と胸を押していた。
「そんな言い方しないで」
その声音に怒りを感じ取ったのか、困ったような表情をする。
「……悪かった」
「何が悪いかわかってないのに簡単にそんな風に言わないで」
「しょうがないだろう、俺には君たちがどう感じるかわからないんだ」
まるで、なんでもないように。
一歩引いて、人と、天司と、違う存在だと知らしめてくる。
「その!言い方も!嫌だ!」
子供の癇癪だと自覚するのに止められない。
悲しいのか悔しいのかもわからない。
感情が高ぶって、じわりと涙が滲む。
「グラン」
諭すような声音にぐっと胸が詰まる。
「俺は別に君を軽んじている訳じゃない」
そっと、髪を撫でる。
知らないと言う癖に、幼子をあやすような手つきで。
「わかってるよ、僕が勝手に怒ってるだけだ」
「いや、わかってないだろう」
眉間に皺を寄せる。
「本当に抱きたいのか?俺は女のように柔らかくないんだぞ」
「は」
「俺は君に触れたいと思うけれど、君は違うだろう」
話がずれている。
この天司はやはり、グランの怒りや悲しみを理解していない。
していない、けれど。
今、グランに告げる言葉に、嘘もないのだ。
そこまで考えると急にバカらしくなってきて。
がばっと身を起こし、サンダルフォンの肩を押した。
素早く腰にまたがってのしかかかる。
グランを拒む理由がそれならば、問題はない。
「僕だって、君に触れたい」
近くで瞳を見つめれば、ほんの少し口元が緩んだ。
「参ったな、特異点に敵うわけがない」
そう言って、承諾するように両手を広げた。


「服は、脱いでほしい」
そろ、と胸の辺りを撫でた。
軽装だがいつもは脱がない。
サンダルフォンの全てを、暴いてみたい。
「へぇ」
その呟きにどんな感情がこもっているかはわからなかった。
ためらいもなく服に手をかけて脱ぎ捨てる。
潔いほどに、白い裸体が露わになった。
肩から胸にかけて手を滑らせる。
「グラン?」
「綺麗だね」
なめらかな手触りも、やはり少し低い温度も。
「君が気に入ってくれたなら良かった」
「うん、すごく……綺麗」
想像していたよりもずっと、美しかった。
触れた箇所を辿るように唇を寄せれば、くすぐったそうな声が漏れる。
白い肌をぺろりと舐めるが何の味もしなかった。
「可愛いな、子猫みたいだ」
「……にゃー」
からかうように髪を撫でられたので、ふざけたついでに鎖骨に軽く噛みつく。
傷にもならないそれはきっとすぐに消えてしまうだろう。
「あぁ、うん、悪くない」
「え」
「俺に喰らいつく君が見られるのは悪くない」
口角を吊り上げて笑う姿はとても楽しそうで、妖艶だった。
これまで見てきた表情とは違う。
「ほらグラン、そんなにゆっくり触っていたら朝になるぞ?」
指が胸に触れ、つっと下がっていく。
臍を辿り、下腹部を示した。
「俺に、触ってくれるんだろう?」
「うん」
身を寄せて、手と唇で触れる。
心臓が音を立て、拙い愛撫を施す指が震えた。
こうして触れるのは初めてで、今まで受け身でいたことに気付く。
「ん」
性器に指を絡めると、微かな声が漏れる。
体温も少し上がった気がした。
「は、ぁ……」
先走りがぬちぬちと音を立て始めたところで、どうすればいいかと迷う。
サンダルフォンの表情は常よりも熱を帯びていた。
少し潤んだ瞳と視線が絡む。
ふ、と笑われた。
「グラン、先へ進もう」
そう言って体を起こすと、サイドテーブルに置いたままの容器を手に取る。
体が離れたせいで濡れた掌が目に入り、なんとも卑猥な気持ちになった。
「君のための物を俺に使う日が来るとは思わなかった」
蓋を開けた手を掴んで止める。
「僕がしたい」
「すぐすむから」
「だから僕が」
「君はそんなことしなくていい」
「だって、サンダルフォンはしてくれるのに」
ほんのりと、目元が赤くなる。
これまでと違う反応に、おや、と首を傾げた。
「恥ずかしいの?」
「……違う」
「え、だってでも」
「君が」
蓋の開いた容器をグランに押しつけ、ぱたりとベッドに倒れ込む。
「君が、そんな顔をするから」
どんな顔なのだ、と鏡など見られる状況ではないのでわからない。
締まりのない顔か、それともだらしない顔か。
「君の好きにしてくれ」
まるで観念した、というような姿が妙に可愛い。
普段の皮肉っぽさや不機嫌さからは想像も付かないほどに。
「じゃあ、好きにする」
「あぁ」
指に取ったクリームは少し甘い香りがした。
これまでサンダルフォンにされたことを思い出しながら触れる。
思いの外簡単に指は呑み込まれ、体内は随分熱く感じた。
人と同じ作りだろうか、ふと思いながらも抜き差しを繰り返す。
顔を上げれば、赤い瞳がじっとグランの様子を見つめていた。
「指、増やして平気?」
問えばコクリと頷くので指を増やす。
自分が気持ちいいと思うところを指の腹で刺激する。
「そうされるのが好きなのか、良いことを知った」
「ちょ、もう、そういうのやめてよ」
先ほど、少し可愛いと思ってしまったのが悔しい。
「今後の参考にしようと思ったのだが?」
「し、しなくていいよ!」
結局言葉で翻弄される。
「ところで君はどうなんだ」
「へ?……あ、ぇ?」
すり、とサンダルフォンのつま先がグランの太股を撫でていく。
そのまま下腹部をまさぐられた。
「あぁ、もう準備できていたんだな」
サンダルフォンの姿に反応していた性器を足で弄ばれた。
手の動きなどとっくに止まっている。
顔を真っ赤にしていると、もういいだろう、と促されて。
「背後からの方がやり易いか」
「嫌だ、ちゃんと顔が見たい」
はっきりと告げれば、ふっと笑われた。
「おいで、グラン」
脚を広げ、右手で後孔を開く。
誘われるままに身を寄せていた。
「ゆっくりでいいから」
「う、ん……」
先端をあてがうと、サンダルフォンの指が離れていく。
ぬちゅりと響いた音がやけに大きく聞こえた。
「すご、熱い……」
腰を押し進めればうねる内部に呑み込まれていく。
「は、ぁ、全部入ったよ、サンダルフォン」
もうすでに息が上がっていた。
きゅうきゅうと締め付けられて達してしまいそうになる。
「動いて良いから、どうされるのが好きなんだ?」
「でも、だって、サンダルフォンは」
ずっと、聞けないままのことがある。
サンダルフォンは最初の頃、慣れてはいないが戸惑ってもいなかった。
グランの身を案じ、平気かと幾度も問われた。
二千年だ。
その間に何があったかなんて、責めることはもちろんできない。
答えを聞き、経験の差を知るのが怖い。
理性を失うのはグランばかりで。
今だって、サンダルフォンは反応はしているが感じているのかがわからない。
「悪いな、こんな体じゃつまらないだろう」
「そんなことない、気持ちいいよ。サンダルフォンは?ちゃんと気持ちいい?」
ぬるりと先走りをまとう性器に触れる。
腰も動かそうとするが上手くいかなかった。
「あぁ、上手だよグラン……泣かなくていい」
「ごめ、僕、僕ばっかり……!」
目元に触れた指が涙を拭う。
「俺はそうありたい」
何が、と問いかける前に。
サンダルフォンが腰を動かした。
ぎゅう、と引き絞るように内壁が動く。
「えっ」
「ほら、君がしないなら俺が好きにするぞ?」
「ま、待って……」
泣き言のような声音が情けない。
呼吸を整えながら、ゆっくりと腰を動かす。
拙い動きで、どろどろと溶けてしまいそうな快感に呑み込まれる。
「サンダルフォン、サンダルフォン」
「何だ、グラン」
「ぎゅ、ってして、抱きしめて」
身を寄せて懇願する。
いつだって、縋り付くのはグランの方で。
「あぁ、これからは覚えておこう」
背中に腕が回り、望む温もりに包まれる。
「グラン」
どろりと、サンダルフォンの中へ欲望を吐き出した。


気だるさから意識を取り戻し、サンダルフォンは横へ視線を向ける。
可愛がっていたはずの相手が、珍しい雄々しさを見せてきた。
それでも、まだまだ可愛らしかったけれど。
そっと髪を撫でて、額に口づける。
「おやすみ、グラン」
これから、もっと楽しい成長を遂げてくれるだろう。


サンダルフォンは微笑む。
誰も知らないところで。

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