Qポコラボ楽しみすぎたときの現パロカフェ。


「いらっしゃいませ!」

出迎えた明るい声に、気分が高揚する。
「グラン!来てくれたんですね!」
笑みを浮かべると、花が咲いたように明るくなる。
それだけで十分、訪れた価値がある。
「もちろん、制服似合っているね」
かわいい、と思いながら、店の地図を表示していたスマートフォンを翳した。
カメラに切り替えたのは半ば無意識のことで、数回、シャッターの音が響く。
戸惑った表情もかわいいな、などと思っていると。
「お客様」
背後から、すっと手が伸びてきた。
シャツの袖を捲り、覗くしなやかな腕は白い。
流れるような動きでスマートフォンを掴んだ指はほっそりとしている。
短く切りそろえた爪の先まで優美だ。
「当店ではスタッフの写真撮影はご遠慮いただいております」
めき、と音が聞こえたのは気のせいか。
気のせいであって欲しい。
震える手から抜き取られたスマートフォンは、先ほどの写真データを消去され戻ってきた、お帰り。
「ルリア、奥の席のオーダーを頼む」
「はい!」
元気よく返事をして、指示のあったテーブルへと向かっていく。
その背中、エプロンのリボンまで愛らしい。
「君はカウンターでいいかな?」
ほんの少し冷ややかな視線を向けられ、こくこくと頷く。
焦げ茶色のシャツに白いベスト、同じ素材のボトムス。
ネクタイは瞳の色に近い深紅で。
身長はそれほど違わないはずなのに、印象が全然違う。
頭が小さいから更にスタイルよく見えるんだろうな、とぼんやり考える。
こちらへ、と背を向けられ硬直した。
薄いシャツ越しに肩胛骨が動くのがわかる。
カマーベストが引き締まった細い腰を強調していた。
ボトムスも体に沿うデザインなのか、臀部や脚のラインがよくわかる。
ストイックな制服のはずなのに、妙に色気があって息を呑んだ。
「グラン?」
動けずにいると、不思議そうに名を呼ばれた。
振り返る姿も絵になる。
はっとして近付き、示されたカウンター席に腰掛けた。
「サンダルフォンの写真も撮っちゃダメ?」
「ダメだ」
目の前にメニューを置き、返る言葉は素っ気ない。
落胆が伝わったのか軽くため息を吐いて、あそこを見てみろと視線で示す。
目を向ければ、ケーキの並ぶショーケースがあった。
その前に女性が大勢立っている。
店内は空いているかと思ったが、大半の客はそこにいるらしい。
なぜ、と思えば、ショーケースの向こうにはにこやかに対応する人物がいた。
女性たちの瞳は熱がこもっており、その人目当てなのだと理解できた。
「俺には彼女たちを制する自信がないな」
もし誰かを特別にすれば、自分もと言い出すのは明白だ。
なので最初から禁止にしている。
「それに、あの子の写真が見ず知らずの人の手にあったら嫌だろう?」
「それは嫌だ」
考えずとも答えていた。
確かにそれは嫌だと。
店に入った時の自分の行動を省みて落ち込む。
大げさなような注意は、周囲への牽制でもあったのかもしれない。
「納得したら注文を決めてくれ」
「うん」
ぱら、と表紙をめくる。
納得したと言えばしたのだけれど。
あんな格好でずっと接客していたのかと思うともやもやする。
写真だけの問題ではない。本当は誰にも見せたくなかったのだと気付く。
その思い詰めた表情をどう解釈したのか。
屈んで、サンダルフォンはグランの耳に唇を寄せる。
吐息が触れ、そっと耳打ちされた。
その言葉を理解して、頬が赤くなる。
見上げれば。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
決まり文句を口にして、カウンターの中へと入っていった。
さて、どんなオーダーをしようか。


来店を知らせる扉の開く音に顔を上げ、サンダルフォンは不機嫌な表情を隠しもしなかった。
いらっしゃいませと言うべきだろうが声が出ない。
いや、出したくもない。
しかしそんな態度を気にもせず。
「相変わらずだなサンディ」
馴れ馴れしく声をかけ、強ばった頬を指で突いた。
すぐにでも店から蹴り飛ばして追い出したいが、他の客の手前堪える。
これまで最後まで堪えられたことはないのだけれど。
沸点が低いのは自覚しているが、他の誰かに接客を任せることはできない。
ルリアなど絶対に接触させてはいけない。
視界の端に入れさせたくもない。
結局、ならば自分がとサンダルフォンが接客する羽目になる。
「こちらへどうぞ」
客の少ない店の奥へと案内しようとすれば。
「ひっ……」
つ、とシャツ越しに背骨を撫でられぞっとした。
振り返れば思ったよりも男が近くに立っている。
身長差があるので、このまま押さえ込まれでもすると逃げ場がない。
「どうかした?」
にっこりと、まるでなにも知らない風を装う。
こめかみがひきつるのを感じながらさっさと席へと案内した。
「ご注文が……」
メニューを並べようとした手首を、きゅっと掴まれた。
手の甲をそろりと指が撫でる。
とっさに引き抜こうとするが力が強い。
「キミが淹れた珈琲が飲みたいな」
「……かしこまりました、その手を離していただけますか」
「彼氏来てたんだって?」
にやにやと笑いながらの問いに目眩がする。
そんな情報どこから仕入れてくるのかと。
「今度紹介してよ、なんなら三人で」
テーブルの下、勢いをつけてその足を踏んだ。
さすがに言葉が途切れ、力の緩んだ手をふり払う。
「珈琲ですね、少々お待ちください」
周りから向けられる心配そうな表情に緩く首を振った。
これまでに幾度も繰り返されているやり取りだ。
店内が空いているときにやってくるのは存分にサンダルフォンをからかうためだろう。
わかってはいるが、聞き流すことができずに反応してしまう。
一度深くため息を吐いて珈琲を淹れた。
広がる香りに少しだけ落ち着く。
カップに注ぎ、男の待つテーブルへと運べば。
カップを置いた直後、尻を撫でられた。
パン、とその手を叩き落とす。
「さっさと飲んで帰れ」
周りに客がいなくてよかったと思いつつ、そう声をかける。
やはり今日も最後まで堪えられなかった。
叩いた手を軽く振り、男は楽しげに笑う。
「その服、いつかオレが脱がせたいね」
どんな反応でも楽しませてしまうのが悔しい。
聞き流せない未熟さのせいか。
その後は大人しく珈琲を飲み終え、やっと終わると会計へ向かった。
出された紙幣の額に眉を寄せ、釣りを用意しようとすれば。
「これでサンディをテイクアウトしたいんだけど」
「当店はそのようなサービスは行っておりません」


ふわりと、穏やかに笑うのを知っている。
皮肉っぽい時もあるけれど。
気を抜いたようなその笑みはとてもかわいらしい。
客へ向ける営業スマイルを眺め、そんなことを考えた。
まるで自分だけが知っているのだと優越感に浸るためだけのようで少し空しい。
いやしかし、あの女性客はサンダルフォンに見惚れている、と思う、多分、きっと。
誰にも見せたくない嫉妬心が滲んだ。
だから、自分は特別だと思いたいのだ。
ちらりと見る、その背中の色香に惑う。
伸びた背はストイックだ。
だからこそ触れてみたいし、乱してみたい。
ネクタイを奪い、ボタンを外して。
シャツの上から確かめるように触れる。
露わになる白い肌を想像し、首を振った。
熱が上りそうになったので冷えた水を喉に流し込むと。
「珈琲のケーキです!おいしいですよ!」
注文したケーキとドリンクが運ばれてきた。
ルリアの明るい声に、現実に引き戻される。
ありがとうと礼を言ってフォークを手にした。
おいしいと言われたのだから味わおうと思うのに、視線はついサンダルフォンに向かってしまう。
整った笑みは自分に向けられる物とは違う。
普段の姿を知っているのにそれが羨ましいだなんて贅沢かもしれない。
そう思ってしまうほどに美しかった。
あの堅い声もいい。
他人行儀だけれどよく似合う。
本当に一線引かれれば傷つくのに、そんなことをのんきに思う。
『君のためなら家で着てやってもいいぞ』
耳に、先ほどの言葉が過ぎる。
密やかに、他の誰でもなく自分だけに告げられた言葉。
沸き上がる劣情がばれたのか。
それとも本当に写真が撮りたいだけだと思われているのか。
どちらだろうか。
もやもやしつつ食べ終えたケーキの味はあまりよくわからなかった。
そして、数日後。
「汚れるからそんなことするわけないだろう」
眉根を寄せ、そう言われるのだった。

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