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辿り着いたその島は、かなり高い場所に位置していた。
しばらく歩き、見えてきた建物は噂に聞くよりずっと豪華な作りをしていた。
白い壁が、青い空によく映える。
辺りに咲き誇る花々が彩りを添えていた。
最上部はドーム型で、壁が抜けているように見える。
周りに建物もないので、見晴らしがとてもいいだろう。
ふんわりと、甘い香りが漂っている。
そっと扉から入れば、内装も凝っていた。
床は美しく磨き上げられ、マカロンのオブジェが鎮座している。
窓は広く取られ、射し込む光に照らされたソファ席は居心地がよさそうだ。
細工が施された家具を眺めつつ一歩踏み出すと。
「申し訳ありません、まだ開店前で……」
奥から出てきたサンダルフォンが、不思議そうに瞬いた。
「団長?別の仕事が入っていたんじゃなかったか?」
カフェの制服なのか、見慣れない格好で傍までやってくる。
「そうだよ、すごい疲れたんだから!」
現れる魔物を倒して倒して、また倒して。
少し休憩してまた、と。
思い出すとどっと疲れが増す。
「なんでサンダルフォンもランスロットもヴェインもいないのさ!僕と仕事どっちが大事なの!?」
「君が割り振ったんだろう?」
「そうですね!?」
半ば八つ当たりだと自覚している。
「それにここの賃金は団の資金になるんじゃないか?それならば君のためだろう」
淡々と言われ、ぐぅと言葉に詰まる。
もう少し優しくして欲しかった。
「うん……そうだね。みんなは?」
「厨房でケーキの飾り付けをしている。俺はこれから掃除の仕上げだ」
開店前の準備中で、忙しかったのか。
邪魔をしてしまったかとしゅんとすれば、ぽんぽんと髪を撫でられる。
「ほら、ルリアを呼んできてやるから、適当に座っていてくれ」
そう言って、奥へと戻っていく後ろ姿を眺めて。
腰から臀部、太股そしてふくらはぎ。
タイトなデザインなのか脚の形がよくわかった。
……あれ、パンツはいてる??
悶々と突っ立ったまま考え事をしていると、軽やかな足音が聞こえてきた。
現れたルリアも、普段とは違う服を着ており、ふんわりとスカートが揺れる。
横を飛ぶビィも帽子とエプロンを身に付けていた。
「かわいいね、ルリア。よく似合ってるよ」
本心から告げれば、照れたように笑う姿がかわいい。
「ビィもかっこいいね」
「そうだろ!オイラたちちゃんと手伝ってるからな!」
胸を張って主張する様がほほえましい。
「今ケーキの仕上げをしてたんです。用意してくるから、食べていってください」
「じゃあお願いできるかな」
「任せとけ!」
嬉しそうに頷いて、二人は厨房へと戻っていった。
ちらりと、やり取りを眺めていたサンダルフォンに視線を向ける。
「サンダルフォンもかっこいいよ」
「世辞はいらいん」
「え、じゃあエッチだね?」
「は?」
ぽろりと零れ落ちた本音を、きっと理解していない。
「というかちゃんとはいてる?概念ある?」
身を寄せて、伸ばした手で臀部を掴む。
布地はやはりというか薄くて。
「え、これちょっと」
「ちょっと待て、狡知に魂でも売ったのか」
「……そんなまさか」
「おいなんだその間は!正直に答えろ!」
「今はそんなことよりサンダルフォンがはいているのかいないのかの方が重要だと思います!」
「ちゃんと用意されていた物を身につけているから心配はいらん!」
「そんな誰が用意したかわかんない物を!?」
下着のラインが出ないということはつまり、布の面積が少ないのではと想像する。
「おいこら尻を揉むな、セクハラだぞ」
「えーそんな言葉どこで覚えてくるの」
「いいから手を離せ、事案になるぞ」
「かわいくない~」
「かわいくなくて結構だ、ほら離れ……」
拒否しながらもふりほどかないからチョロいよな、などと思っていると。
「何をしているのかな、特異点」
抑揚のない声が、二人の耳に届いた。
あ、保護者いたの忘れてた。
散々密着して尻まで揉んでも顔色一つ変えないくせに。
「少しふざけていただけです、騒がしくしてすみません」
そっと体を離して答える。
その、頬が。
ほんのりと赤く染まる。
「そうか、仲がいいのだな」
傍まで来ると背が高く圧迫感がある。
勝手に怯えているだけだけれど。
感情が読めなくて尚更怖い。
怒りや憤りがある方がわかりやすくてマシだと思えた。
おたくのサンダルフォンにくっついてごめんなさい、と心の中で謝っておく。
口に出す度胸などない。
「蒼の少女が君に上の階を見てもらいたいと言っていた。そちらに準備している」
「上?」
「見晴らしのいい席だ、行ってくるといい」
外から眺めた最上部を思い出す。
天気がいいとさぞ気持ちいいだろう。
「私はまだやることがあるから、サンダルフォンに案内してもらうといい」
「わかりました」
頷いたサンダルフォンに向け、ほんの少し微笑んだように見えた。
あぁ、と思う。
自分が知ってはいけない表情だったのではないかと。
ゆっくりしていくといいと告げ、ルシフェルはショーケースの方へと向かっていった。
カラフルなケーキが並んでいるのが見える。
「……ねぇ、ルシフェルのエプロンさ」
「おい貴様あのお方を愚弄する気か」
ぎろりと睨んでくる。
先ほどまでのやりとりと温度が違いすぎた。
それに、言わんとしていることを何となく察しているのではないか。
「いやそんなつもりはないんだけどさ」
「じゃあ何だ、言ってみろ」
「透けてたけど色々大丈夫?」
実用性はあるのだろうか。
「……俺に聞くな、こっちが階段だ」
行くぞと向けられた背をぼんやり眺める。
ところでパンツ何色?