backstage 02
『サンダルフォン』
まだ、幼い声が響く。
『大きくなったら、私と結婚してくれないだろうか』
澄んだ蒼い瞳が見上げる。
手には撮影で使用したブーケをきゅっと握りしめていた。
幼いからこそ、その言葉は真摯で誠実だ。
キュッと胸が締め付けられる。
『っ……よろこんで!』
『よろこぶな!』
バシッと何かで叩く音がし、画面が揺れる。
美しい顔はフェードアウトし、映るのは足下で。
『何を即答してんだ、ガキじゃないんだから現実教えてやれよ』
『その言い草は何だ、失礼だろう』
くだらない言い合いがしばらく続き、ぶつりと映像は途切れた。
頬を赤く染め、サンダルフォンは無言でイヤホンを耳から外す。
初出しの映像や写真はないかと探していたら、とんでもない物を発掘してしまった。
本人はもちろん、これはもう誰にも見せるべきではないだろう。
しかし、消去することはできなかった。
懐かしさと愛しさで胸が満たされ、こっそり保存しておこうと心に決める。
映像の中の愛らしい少年は、とっくにサンダルフォンの身長を追い越している。
声も低く、落ち着いた響きに変わった。
甘い顔立ちなのに、ストイックに鍛えた肉体は逞しいものだ。
先日発売した雑誌にはその上半身が惜しげもなく晒され、売り上げもファンの評判も好調だった。
少し迷い、イヤホンを片方だけ装着し、再生ボタンを押す。
最初の方の映像は、撮影風景を映していた。
録画していることに気づき、こちらへと走ってくる。
名を呼ばれる、身構えたその時。
「サーンディ」
ふ、と耳元で響いた声に飛び上がるほど驚いた。
びっくりしすぎると声も出ないのだと、嫌な汗を流しながら思う。
ゆっくりと振り返れば、ニヤニヤと笑う男がいて。
「こそこそしてるからナニ見てるのかと思ったら、それ今日のおかず?」
「は、ふざけるな」
なんだ違うのかと呟いて、頬をそっと撫でていく。
「じゃあオレと結婚しようぜ」
誠意の欠片もない声が、深夜の事務所に響いた。