狼グラン君×梟サンダルフォンの日常

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狼と梟 01

夕暮れに近い時間、足を踏み入れた公園に人気はほとんどなかった。
遊具から離れた場所にあるベンチへと迷わず向かう。
待ち合わせ、とはっきり意識すると気恥ずかしい。
舗装された道を歩いていくと、ベンチに少年の姿が見えた。
手には文庫本を持っている。
前回会ったときに貸した本だろうか、そう思うと愛しさが増した。
足下で砂が音を立て、少年がぱっと顔を上げる。
反応が遅かったのは自身が風下だったからか、と納得してしまった。
「グラン、遅くなって悪い」
「ううん、そんなに待ってないよ」
首を振る姿が健気だと思う。
校則通りに着込んだ制服。
中にカーディガンが見えるがそれだって薄いものだった。
「君はまたそんな薄着で、寒くないのか」
「大丈夫だよ」
「受験生だろう、体を大事にしろ」
制服姿の彼と出歩くのは少々気が引ける。
互いの妥協点であるこの公園で会っているが、これからの季節はやはり厳しいだろう。
どこか場所を考えようと思いつつマフラーを外すと、身を引くような仕草をした。
「グラン?」
いつだって朗らかで、たまに困ったように笑う、彼が。
表情を消すのはひどく恐ろしい。
冷えた指が頬を撫でた。
やはり長時間待っていたのだと気付いてしまう。
「あの人の匂いがする」
その声すらも冷めている。
狼の血を引く彼は、嗅覚や聴覚がとても鋭い。
「講義が一緒になっただけだ」
今日の出来事から、思い当たる人物など一人しかいない。
しかも彼が警戒するような言動の。
「くっつく必要はないよね?」
傍にいるだけで付く匂いはもっと薄いらしい。
自分では判別できないが、テリトリーに入ることを許容しているのだという。
離れろと言ったところで聞きはしない。
それを諦めたのは自分自身だ。
だから何も言えなかった。
「今のサンダルフォンとは一緒にいたくない」
心臓が潰れる気がした。
呼吸すら忘れてしまいそうなほどに。
こんな気持ちを抱くのは彼にだけだ。
返事など待たず離れる気配に、咄嗟に手を伸ばす。
「匂いを落とせばいいのか」
ブレザーの裾を掴めば、困惑気味に振り返った。
離れがたい感情を消すことができない。
「俺の部屋でいいか」
まだ少しあどけなさの残る頬が真っ赤になった。


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