ルームシェア 05
「グラン」
改札を抜け、階段を上っていると背後から声をかけられた。
聞き慣れたその声で振り返る前に、横に並ぶ。
「お帰り、遅かったんだな」
「友達と話してたら遅くなっちゃって。サンダルフォンも、お帰り」
あ、ちゃんと勉強もしてきたよ、と付け足せばわかっていると笑われた。
駅を出て住宅地へ足を向ければ、多かった人も少なくなる。
並んで歩いていると、さり、とサンダルフォンの指が手に触れた。
意図したものではなく偶然で、驚いて肩が強ばってしまう。
「悪い」
小さな謝罪と共に体が離れてしまう。
悲しげな表情に胸が軋んだ。
嫌なわけではもちろんなかった。
ほんの少し驚いただけで。
整った外見には不釣り合いなその指先は、カフェのアルバイトの影響だろう。
彼に見惚れる女性たちはきっと知らない。
その荒れた指が愛しい。
本当は、触れて欲しい、もっと。
「ねぇ」
きゅ、とかさついた手を掴む。
じわりと互いの体温が混じる。
街灯の明かりだけで、人気もない。
そのおかげか拒まれることはなかった。
「肉まん食べない?」
「また君は……」
眉を寄せて呆れたように。
それを気にせず、ぐいぐいと手を引いてコンビニへと向かう。
「大丈夫、半分個だよ」
「そういっていつも」
君がほとんど食べるじゃないか。
予想した言葉は途中で途切れ、ポケットからスマートフォンを取り出した。
どうしたのかと見つめるグランの先、ふっと口元に笑みを浮かべる。
「ほら」
見せられた画面には。
『今夜は唐揚げ』
という言葉と共に、かわいらしい鶏のイラストがついていた。
「サンダルフォン、早く帰ろう!」
きっと同じメッセージが自分にも届いている。
寄り道しかけたコンビニを無視し、帰路を急いだ。
今からグランと帰る、なんて返事をしているとは知らないまま。