01/02/03/04/05/06/07/08/09/10

ルームシェア 09

焼いたトーストにバターを塗りながら、テレビ画面を見た。
「積もったねぇ、電車止まってるじゃないか」
駅前や、渋滞する幹線道路の映像とともに年始の天気を告げる。
食材の準備をしていて良かったなと思いながらベリアルは口を開いた。
「サンディはバイト?」
「客足が少ないから休んでいいと連絡がきた」
「そっか。で、キミはなにをそわそわと外を見ているのかな?」
カーテンを開いた窓から見える庭は白銀で、太陽光を反射して明るい。
そちらを気にするように度々視線を向けているのはグランだ。
問いかけに目を丸くし、牛乳をごくりと飲み込んだ。
「積もるの久しぶりだからちょっと外で遊んでこようかなって。近くに公園あったよね」
にこにこと、疑問などかけらももたずに告げる。
「グラン、こんな寒い中」
「ごちそうさまです!」
サンダルフォンの言葉を遮り、パン、と手を合わせ空になった食器をシンクへと持っていく。
「いってきまーす、サンダルフォンも来てね!」
「ちょっと待てグラン!」
制止の声が届くはずもなく、扉の閉まる音が聞こえてきた。
行ったな、あれは確実に公園へと向かったな。
「追いかけなくていいのかい?」
笑いながら問う声をかけられ睨みつける。
「行くに決まっているだろう、放っておいたら帰ってこなさそうだ」
「過保護だねぇ、ルシフェルに似てきたんじゃないか」
からかう言葉に舌打ちして、残りの朝食を胃に収めた。
ゆっくり珈琲を飲めるのは午後になりそうだと思いながら食器を片付ける。
出かける準備をして玄関に向かえば、グランのマフラーが残っていた。
コートだけ羽織って飛び出していったのか。
仕方がないな、と自分のマフラーを巻いてからそれを手にする。
「サンディ、はい」
「何だ」
「カイロ持ってきな。後、帰りにお菓子でも買っておいで」
反射的に出した手に、袋から出されたカイロ二つと、現金の入った財布が乗せられた。
お前も過保護じゃないか、と。
言いたかったのに言葉にはならず。
マフラーに埋もれた口元が軽く笑っていた。


存在は知っていたが、公園に入るのは初めてだった。
子供達のはしゃぐ声が聞こえ、本当にここにいるのかと見回して。
すぐに見つかって頭を抱えた。
「……何をやっているんだ君は」
「あ、サンダルフォン」
声をかければにこりと笑ってグランが見上げる。
その両脇から幼い瞳も向けられた。
大きくした雪玉を、赤くなった手が持ち上げる。
「はい完成!」
「わぁ、お兄ちゃんありがとう!」
きゃっきゃと嬉しそうな声が響き、顔付けてあげてね、と優しい言葉を返した。
二人の少女は何で表情を作るか相談し始め、母親らしい女性が申し訳なさそうに頭を下げる。
グランの方も軽く頭を下げ、僕らも作ろうと提案された。
しゃがみ込んだグランにそっと寄り、小さな声で問いかける。
「知り合いか?」
「全然。雪だるま作るの大変そうだったから手伝っただけだよ」
しれっと返され、そのコミュニケーション能力の高さに言葉が出ない。
まじまじとグランを見てしまった。
「あれ、マフラー持ってきてくれたんだありがとう」
「あぁ、寒いだろう」
「巻いて?」
ほんの少し首を傾げる。
そうだった、自分にもこうやって、簡単に距離を詰めてきたのだ。
懐かしいような記憶を振り返りながら、その首に巻き付ける。
少しきつめにすれば、苦しいよと笑っていた。
雪玉を転がす指が冷たそうだ。
「手伝ってよサンダルフォン」
「君一人で十分楽しそうじゃないか」
「えぇ、楽しいけどさ」
二段目に取りかかろうとしたとき、どこからが雪玉が飛んできてグランの背に当たった。
「ごめんなさーい」
少年の声が響く。
雪玉は簡単に弾けたので、大した威力はなかった。
しかしグランはニヤリと笑い、走り出した。
サンダルフォンが止める間もなく、作りかけの雪玉を持って。
子供の雪合戦にあっさりと混ざるなど、サンダルフォンには想像できない。
それが目の前で始まる。
「サンダルフォンも!」
そうやって声がかけられたことにより、遊んでくれる大人認定されたのか、サンダルフォンにも雪玉が飛んでくる。
「ちょ、待てっ……!」
仕方がなくサンダルフォンも走る羽目になったのだった。


ひとしきり遊び相手をして。
いや、遊んでもらったと言うべきか。
マフラーが煩わしくなるほど走り回った。
日差しに、雪も溶け始めている。
疲れたり寒くなった子供達が帰るのを手を振って見送り、はぁ、とため息を吐き出す。
「俺たちも帰るぞ」
時計を見れば、二時間近く外にいた。
指の感覚がほぼない。
途中グランにも渡したカイロをぎゅっと握る。
「そうだね。あ、サンダルフォン、写真撮って!」
「は、写真」
何の、と問う前にグランが走り出す。
まだ体力があるのか、と呆れつつ目で追えば。
公園の片隅、傾斜になった芝生に倒れ込んだので悲鳴を上げそうになった。
慌てて追いかけ、何をしているのかと覗き込めば、随分深く積もった雪に埋もれるように寝転がっている。
端の方なので誰も通っていないのだろう。
回りの雪が綺麗だ。
「こういうの憧れない?」
「ないな」
「冷たい、サンダルフォンも雪も冷たい」
「じゃあするなそんなこと」
「写真だけ撮って!」
早くと急かされスマートフォンを手にする。
指が上手く動かない。
そんなサンダルフォンがおかしいのかグランが笑う。
可愛いな、などと思いながら写真を取り終え、早く帰るぞと促せば。
「え、立てないっ!」
微妙な傾斜で足が滑るらしい。
雪の中、慌てるグランがおかしくて笑ってしまう。
「ほら」
そう言って手を引いてやり、ようやく立ち上がる。
どちらの指も冷え切っていた。
それでも手放すのが惜しくて、きゅっと握り込む。
「ベリアルが菓子でも買ってこいと言っていたから、コンビニでも寄るか」
「いいね、肉まん食べたい」
そうだな、と頷いて。
コンビニまでの短い道のりを、手を繋いで歩いた。


濡れた服を着替え、肉まんを二つ胃に収めて。
「寒い」
震えるグランがすっぽりとこたつに潜り込む。
「風呂に入るか聞いただろう」
「うぅぅ、大丈夫だと思ったんだもん」
サンダルフォンも寒いので、暫くこたつから出られそうにない。
あぁそうだ今日は掃除がしたかったんだ、と思うが無理そうだ。
ぼんやりとテレビに映る年末特番を眺めていると、ベリアルが顔を出して。
「ぜんざい食べる人ー?」
問う声に、ばっと二人して手を挙げた。
「餅何個?」
「二個!」
「オーケイ、サンディは?」
「あー、……一個」
「半分でもイイよ?」
「じゃあ半分」
「ハイハイ、ちょっと待ってな」
笑いながら、キッチンへと戻っていく。
「あ、グランさっきの写真送っておく」
「ありがとー」
スマートフォンを操作して、出来心でベリアルにも送信する。
少し間をおいて、キッチンから笑う声が聞こえた。
「お楽しみだったみたいだねぇ」
言いながら、甘い香りと共にベリアルがやってくる。
「妙な言い方をするな」
「事実だろう?」
こたつの上にぜんざいの入った器が置かれる。
寒さはどこかへ行ったのか、グランが起きあがった。
「あんまん買わなくて良かったね」
「君なら続けてでも食べるだろう」
「僕じゃなくてサンダルフォン」
にこにこと笑いながら、木のスプーンを手にする。
前を向けば、にやにやと笑うベリアルがいたので、とりあえずこたつの中で足を蹴っておいた。
それにすらも笑うのだから、眉間に皺を寄せ、サンダルフォンもスプーンを手にした。
「夕飯は鶏鍋からの年越し蕎麦な。それまでにちょっと部屋の掃除しておけよ」
はぁい、とグランが答える。
賑やかな年末も悪くないなと、甘いそれを飲み込んだ。

/
text